風景-1
ローマにいた頃、よくオペラを観に行った。オペラが始まるのはだいたい、夜の8時半ぐらいからだからいつもより少し早めに軽く食事をし、自宅から歩いて15分ぐらいのところにある、ローマ歌劇場までの道を歩いていく。
ローマの冬は寒く、石畳を蹴る靴音は底冷えのする町の中でカッツ、カッツとよく響く。派手な看板が無く、街灯も少ない、静かで少し薄暗いぐらいの旧市街の路地を自分の足音を聞きながら劇場へ向かうひと時は、今から観る舞台への期待をいやが上にも盛り上げてくれる。
歴史が堆積してできた町並みはそれ自体がまるで舞台セットである事は前にも述べたが、それをさらに効果 的にしているのは景観に対する配慮である。
旧市街では新築の建物はほとんど不可能。派手な色の看板や照明もだめ。巨大な広告看板や電信柱も無い。(電信柱などというものは旧市街でなくともどこのもない。)
日本でも町並み保存の声がよく聞かれる。都心部では「魅力的な町並み景観」を形成するための条例もつくられている。そうしたことはもちろん大事だとは思うけど、その前に空中にとぐろを巻いている電線だけでも地中に埋設し、地上から電信柱を消してしまえば町並みは随分変わると思うけど。
スケッチはトラステヴェレ地区のある一角。